上方歌舞伎界を描く吉田修一原作、李相日(りさんいる)監督の映画「国宝」が公開中だ。大看板の花井半二郎を継ごうとする女形の人気役者2人を、吉沢亮と横浜流星が演じている。華やかな表舞台とその裏にある厳しい人間模様。公開2週で興行収入が10億円を超えた話題作を3人の識者が読み解く。
矢内賢二・歌舞伎評論家「吉沢亮と横浜流星に感心」
吉沢亮と横浜流星という、今をときめく2人が歌舞伎役者を演じる。それだけで歌舞伎ファンとしてはよだれがたれます。2人の舞台上での演技は、もちろん本職と比べるのは気の毒だけれど、決して下手には見えませんでした。立ち姿や歩く姿もしっかりしていて感心しました。
男が女を演じる女形は、人体の構造上、無理を強いられます。立ち姿一つとっても難しい。2人は1年半、稽古したと聞きましたが、身体能力が高いのでしょう。
素晴らしかったのは田中泯です。演じた女形の長老はおそらく故・六代目中村歌右衛門をモデルとしていて、彼の口癖も出てきます。「鷺娘(さぎむすめ)」を踊ったり、じっと口上の幕開きを待ったりする田中の姿は、違和感がないばかりか、女形の本質をつかんでいるように見えました。
普段の公演では見られない角…